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金属材料が変形するしくみと金属材料の強化方法について

VA・VE 強度向上

金属は比較的高い強度を持ちながら、柔軟に変形する性質も合わせ持っています。そのため、破壊する危険性が少ないにも関わらず、様々な形に加工することが可能であり、その有用性から自動車や建築物など様々な製品で多く用いられています。今回のコラムでは、金属材料が変形するしくみと金属材料の強化方法について、ご紹介いたします。

 

金属材料が変形するしくみ

金属は原子が規則正しく並んだ「結晶」と並びが乱れた「結晶粒界」の集まり

金属組織を顕微鏡でみると、様々な大きさ、形の「粒」を確認することができます。
この「粒」を結晶と言います。どの部分を拡大して見ても、同様の粒を確認することができるため、金属はこの結晶が無数に集まってできた多結晶体であるということが分かります。
一方、この結晶をさらに拡大して見ると、原子が規則的に並んだ姿を確認することができます。結晶とは同じ方向に並んだ原子の集まりであり、ひとつひとつの結晶において原子の並ぶ方向は異なります。また、結晶と結晶の境目には結晶粒界と呼ばれる領域が存在しますが、この結晶粒界は、原子の並びが乱れた構造になっています。金属組織は、この原子が規則正しく並んだ結晶と並びが乱れた結晶粒界が集まることによって構成されています。

 

 

綺麗な原子配列を乱す「転位」と金属材料が変形するしくみ

上述の通り、結晶中の原子は基本的に規則性をもって並んでいるのですが、実は部分的にそうでない箇所(欠陥)が存在します。その欠陥を転位と呼びますが、金属の変形はこの転位が結晶中を移動することにより起こると言われています。

 

 

金属に外力が加わると、構造的に不安定な転位が押され、原子配列にズレが生じます。
このズレが徐々に伝播していくことで、結果として原子サイズの段差ができます。転位の移動が幾重にも重なりあうと、この段差は大きくなり、やがて目に見える変形となります。

 

 

このように金属材料の変形とは、転位という非常に小さな欠陥が金属材料の中に存在しているからこそ可能な現象であると言えます。
ちなみにまったく転位の無い綺麗な原子配列の材料の場合は、この原子配列全体を一気にずらす必要があるため、転位のある材料と比べ、100倍の応力を加えないと変形させることができないと言われています。(現在の技術では転位の無い材料を製作することは難しいとされています)

 

金属材料の強化方法

金属の変形が転位の動きによって起こっているのであれば、転位の動きを抑えることで、変形しにくい金属、つまり高強度の金属を得ることができるとも言えます。
 私たちの身近にある金属材料は、必要な強度を得るために、転位の動き抑える様々な手法がとられています。代表的な手法として、固溶強化、析出強化、加工硬化(転位強化)、結晶粒の微細化という4つの手法があり、それらをうまく活用することで金属は強化されています。

 

1.固溶強化

固溶強化とは、元の金属とは異なる元素を混ぜることで原子配列にひずみを生じさせ、転位の動きを抑制するという手法です。
固溶強化は侵入型と置換型の2種があり、どちらのタイプになるかはベースとなる金属の原子と混ぜる元素の原子サイズにより決まります。
 
侵入型は原子配列の中に別の元素が侵入することで原子配列にひずみが生じるというものです。配列に侵入するためにはベースとなる金属原子よりもはるかに小さな原子である必要があり、例えばFe(鉄)の場合では、H(水素)、O(酸素)、C(炭素)、N (窒素)、B(ホウ素)などに限られます。
一方の置換型はベースとなる原子と混ぜた元素の原子が入れ替わるというものです。大きさの異なる元素が入れ換わることで、置き換わった原子の周辺でひずみが発生します。
なお、一般的には侵入型のほうが発生するひずみ量が多いとされており、鉄鋼材料の場合では、代表的な侵入型固溶元素として炭素やホウ素が利用されています。
   
車の走行でも同じことが言えますが、きれいに舗装された道とデコボコ道では、舗装された道、つまりひずみない道の方がスムーズに走行することができます。転位も車と同じようにひずみのある原子配列の中では動きづらくなるのです。
なお、金属材料は一般的に混ざりものが入っていない純金属のまま使用するのはまれであり、別の元素を固溶させた合金として使用します。よってほとんどの金属材料は固溶強化の恩恵を受けていると言えます。

 

 

 

2.析出強化

析出強化とは、結晶の中に小さく硬い金属化合物を析出させることにより、転位の動きを抑制するという強化方法です。特殊な熱処理を施すことにより微細な金属化合物を析出します。アルミニウム合金の一種であるジュラルミンやSUS630などの析出硬化ステンレス鋼、一部の工具鋼などは、この析出硬化によって高い強度を得ています。

 

 

3.加工硬化(転位強化)

加工硬化とは、金属に力を加えて塑性変形(永続的な変形)させた時、金属が硬くなるという現象のことです。上述の通り、金属の変形は転位の移動により起こりますが、
金属に力がかかると、元から存在する転位が移動するだけではなく、変形により生じたひずみにより、新たな転位も生まれます。転位の数が増え、密になると転位は互いに絡みあい、次第に動くことができなくなります。このような状態になると、転位を動かすためにはより強い力が必要となります。

 

 

4.結晶粒の微細化

結晶粒の微細化とは、結晶の大きさを小さくすることで強度を上げる手法です。
金属は原子が規則的に並んでいるからこそ、転位の移動が起きやすいのですが、原子の配列が乱れた結晶粒界では転位の移動が妨げられます。
結晶粒径を小さくすることで結晶粒界の割合を増やすことにつながり、転位の動きが抑制され強度が向上します。
この強化方法はホールペッチの関係式と呼ばれる経験式でも表されており、結晶粒径の1/2乗に逆比例して強度が向上すると言われています。鋳造より鍛造の方が強いと言われる理由の一つにこの結晶粒の大きさの違いがあります。金属材料を叩いて圧縮する鍛造では、この結晶粒も小さくなりやすいのです。

 

 

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